母の幸せとわたしの復讐

母親が手術をした。

 

わたしが専門学校に通っていた頃にも同じ手術をしたことがある。

今回その病気が再発したので、同じ手術を受けた。

 

どうやら無事に終わったらしく、病室から見える東京タワーの写真を送ってくる。

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東京だね

あたたかい光を纏う東京タワーは、周囲の整然としたビル群をそっと見下ろしている。東京タワーはとても人懐っこい電波塔だ。目まぐるしく変わる東京の景色に懐かしさを与えてくれる。

手術を終わって見る景色が、ビルだけじゃなくて良かったと思う。

 

母は大量の薬を一生涯飲み続けなくてはいけない。

病気のことが分かった時、初めての手術が終わった時、わたしはとても悔しかった。

こんなに苦労して頑張ってきた人に、もっと苦しめと言うのか。残酷だな。

わたしは母の人生を全て知っているわけではない。知らないことの方が多いだろう。

それでもわたしの知っている一部分の人生では、とても苦労していた。

 

わたしの父親は、家父長制度を煮詰めて濃くしたような人だった。

仕事をしたかった母を主婦にさせて、経済的余裕が欲しくなったらまた働かせた。

家のことは何一つしなかったし、酒を飲んで帰ってこなかったり、怒鳴ったり手をあげることも多かった。

 

別居を始めてからは、好きな仕事ではないかもしれないが、外で働くようになって、勉強もして、本を読んだり映画を観たりしている。

わたしは、母の一人の人間としての人生を取り戻してほしいと強く願っている。

それを邪魔するように病気を患ったので、とても悔しくて、とても悲しかったのだ。

 

病気になって良かった、なんて決して思えないけれど、ずっと付き合っていくしかない。本当に厄介な存在だ、でもそうやって死ぬまで生きていくだけだ。

生きていくというのは、切り離すことはできない厄介なものを一緒に引き連れていくことなんだろう。付き合い方を考えながら。

 

わたしには切り離したくても切り離せない父がいる。

これからも繋がりはあるし、どうしたってわたしの父だ。

 

gleeに出てくるイザベルは「人が前に進むには2つの方法があって、許してもらうこと、そして、許すことだ」と言っていた。わたしは優しくて芯のある言葉をくれるイザベルが大好きだ。

でもわたしは一生許さない人リストから父を消すことはない。

母が怒ることに疲れてしまったり、どうでもよくなったとしても、わたしは自分でガソリンを注ぎ続けてこの怒りを消さない。

それは、わたしにとって、母の幸せを願う一つの手段でもあるし、クソみたいな家族像を正当化してきた父への復讐でもあるのだ。

 

来月は犬たちを連れて、母が待つ実家に帰ろうと思う。

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ふたりを見てると幸せだよ

 

今週のお題「雨の日の過ごし方」